大分昔の漫画ではあるが、動物漫画の中で今でも燦然と輝く『動物のお医者さん』は、北海道大学獣医学部を舞台にした漫画である。
主人公西根公輝(ハムテル)が受験生だった高校三年の時に、近道代わりにと親友二階堂と駆け抜けていた北海道大学構内で漆原教授から一匹の子犬を押し付けられるところからこの物語は始まる。
動物ものというと、大抵が最終的に動物が死んでしまったりするお涙ちょうだい物が多かったり、また漫画家といえども動物を描くことは苦手な人が多いようで妙にリアリティーに欠けるものが多い中、この漫画はそのどれもと一線を画す。
なにしろ出てくる動物全てが本物に近いクオリティーで描かれ、更には話の内容もどこはかとなくユニークなのだ。
ネズミが死ぬほど嫌いなのに獣医学部に進学してしまった二階堂、子供がそのまま大人になったような漆原教授に几帳面を絵にかいたような菅原教授、盲腸が末期段階になっても痛みを感じなかった菱沼さんに自分中心で西根家を切り盛りする祖母のタカ、この他一癖も二癖もありそうな脇役陣を備えて主人公ハムテルと飼い犬のチョビを中心として様々な日常が描かれている。
大きな事件など何も起きない、ほんの日常が描かれているだけなのに、そこに動物が介入するだけでなぜこんなにも面白くなるのか。
登場する動物たちは皆それぞれコメントを発してはいるが決して人間と会話できているわけではない。
ただただ人間の言動を見て呟いているだけ、それがなんともおかしくて仕方ないのだ。
個人的には、タカの飼い猫ミケが治療の為首元にカラーをつけられた際、そのカラーごとハムテルの食事に覆いかぶさって食べてしまうヒトコマがおかしくて仕方なかった。
チョビもミケも鶏のヒヨちゃんも、それぞれにキャラが立っていて動物だけのシーンでもおかしさが成り立つのが素晴らしい。
私自身はこの漫画を連載当時は読めなかったが、大人になってかつてのシベリアンハスキブームがチョビをきっかけにしたものだったと知った。
ブームに乗っかってハスキーを飼い始めた結果捨てられた可哀想な子たちも多かったことは同じ人間として恥ずかしく申し訳ない事であるが、覚悟のない人間がヒョイと飼ってしまいたくなる、それだけこの漫画のチョビが愛らしかったのは事実である。
何度も何度も繰り返し読んだ漫画だけれど、なんだか疲れたなぁ、と思った時は必ず、ハムテルの事が大好きで、怖い顔してるのに真面目で穏やかなチョビに会いにこの本を開いてしまう私です。